23:33、
Googleナビの予想通りの時間に空港にバスが到着し
その瞬間『デスレース』の号砲が鳴り響きまきした。
23:45発の飛行機にむかって、残り12分間で数々の手続きを突破しつつ
2㎞ぐらいある空港のロビーを駆け抜けなければなりません。
まず、空港の手荷物預かり所で
大きな荷物を抱えたN上さんとOさむさんがひっかかりました。
ルールに則り、両名はここに置いていくこととなります。
けれども僕たちには、手荷物預かり所に置いてきた両名を心配する暇などありません。
明日は我が身・・・
この時点で『デスレース』生き残りはあと7名
僕たち7人は鬼の形相で長い空港のロビーを走り続けます。
普段はとても長く時間のかかるもろもろの検査や手続きも、僕たちの鬼気迫るオーラが空港職員に伝わったのか
『オマエラ、ガンバレヨ!!』
と言われているかの如く、するすると通過し続けました。
異国のやさしさに触れた瞬間でしたが、そんな感傷に浸る暇などありません。
しかし何となく帰国に向けて希望が持てた瞬間でした。
さて、ここで『デスレース』のもう1つのルールをご紹介しましょう。
それは
『誰もゴール地点(=搭乗口)を知らない。』という点です。
ハブ空港でもあるこの空港はA1、A2・・・A20、B1、・・・Q1、Q2・・・と搭乗口が100か所以上あり
事前に与えられた情報は搭乗口が『Q』ということのみで、Qの何番なのかを
電光掲示板から探さなければなりません。
もちろん立ち止まってじっくりそれを探す時間などないわけで、その作業は走りながら行わなければなりません。
このもう1つのルールを探しつつ巨大な空港内を上下左右に走り回りました。
『搭乗口、何となくこっちっぽくない?』というあやふやな根拠に運命を託して走り回りました。
そして気づいたら僕たちは6人になっていました。
どうやらN本くんが道をロストしたようです。
しかしながら僕たちの足が緩まることはありません。むしろ加速した感さえありました。
先頭は僕と大学時代ラグビー部だったT岡くんの2名
隊列はどんどん長くなり、エスカレーターを下り、また駆け出し
ついに僕たちから後続の4名が見えなくなりましたが
『たぶん後続4人はついてきてくれているだろう』
という気持ちの元、僕たちはさらに加速します。
そしてついに、天井からぶら下がった『Qの搭乗口はこっち』という案内板を発見しました。
ただそのときの僕たちには、安堵感よりも
『ホントに搭乗口はPでいいのか?』
という猜疑心の方が強かったのです。
東南アジアの空港では事前に伝達された搭乗口と実際の搭乗口が異なるということが往々にしてあります。
ですので、僕とT岡くんは電光掲示板の中から僕たちの乗る飛行機の便名を探し始めました。
結果
搭乗口は『Q』ではなく、『P10』ということが判明。これはいよいよ後続の4人を見捨てることになるなと思ったとき
T岡くんから
『僕は後続の4人をここで待って、P10ということをみんなに伝えますから、
ヒゲさんはP10目指して駆け抜けてください』
ということをアイコンタクトで伝えられた気がしました。
次の瞬間、僕はT岡くんに背を向け、Pの搭乗口を目指して
駆け出しました。
よって、デスレース生き残りはあと1名。
けれども、僕が間に合えば、そして僕がみんなが来るまで出発を待ってくれと空港職員を説得できれば
異国の空港の地に散っていったみんなを、ひょっとしたら蘇らせることができるかもしれない。
そのみんなの思いを受け取り、そして空港の動く床の効果と相まって
僕はキロ3分(1kmあたり3分)の速さで空港を駆け抜け
そしてついに『P20』の搭乗口を発見しました。
走り続ける風景が『P19』、『P18』、『P17』・・・
とカウントダウンしていき、だんだん『P10』に近づきますが
『 P12』までたどり着いたとき、つぎの表示が『P1』、『P2』・・・とカウントアップしていきました。
ただ、そんなことで僕の気持ちは折れません。恐らくあともう少しで『P10』にたどり着けるはずだから。