最後に、本書の最後に書かれている作者から未来を担う中学・高校生・大学生に向けたメッセージをご紹介します。
ー未来を担う君たちへー
皆さんは、少子高齢社会について真剣に考えたことがありますか。これは日本で暮らすすべての人が関わらずにはいられない問題です。極めて厳しい現実もありますが、包み隠さずお話したいと思います。日本の行く末を見つめ、自分たちを待ち受ける社会とどう向き合えばよいのかを考えるには、まず真実を知ることが大切であると思うからです。
日本はすでに4人に1人が高齢者という社会に突入しました。高齢化は随分進んできています。ですが、実際には高齢化はこれからが本番です。私は、みなさんが40代にとなり、社会の中心で活躍している2040年代初頭こそ、日本社会にとっての「最大のピンチ」の時期であると考えています。人口ボリュームの大きい団塊ジュニア世代(1971~1974年生まれ)が70代となって、2042年に高齢者数はピークを迎えるからです。
人口減少問題では高齢化率(総人口に占める65歳以上の割合)がクローズアップされることが多いのですが、むしろ注目すべきは「人数」のほうです。高齢になれば大きな病気を患いがちです。入院用ベッドも介護サービスも、高齢者の絶対数が増えることに応じて増やさなければならないからです。
私が、2040年代初頭を「最大のピンチ」と位置付ける理由はもう1つあります。これは、「日本の不幸」とも言うべきことなのですが、団塊ジュニア世代というには就職氷河期と重なった世代でもあるのです。大学を卒業しても思うように就職ができず、40代半ばとなったいまでも定職についていなかったり、仕事があっても低収入を余儀なくされたりしている人が少なくありません。団塊ジュニア世代に続く世代にも同じような状況の人が数多くいます。一方で、団塊ジュニア世代より少し前の世代といえば、中高年になってからリストラや大幅な賃金カットに見舞われたケースが珍しくありませんでした。
つまり、2040年代初頭の高齢者には無年金や低年金の人がたくさん出てきそうなのです。他方、団塊ジュニア世代は、あまり子供を産みませんでした。「第3次ベビーブーム」は到来せず、その後も、少子化は進んでいきました。このため、団塊ジュニア世代を支える世代というのは、極めて人数が少ないのです。2040年代初頭には社会の支え手(20才~64才)は随分減って、総人口の5割に満たないと予測されています。これでは、その頃、支え手世代の中心となる皆さんは大変に厳しい状況に追い込まれてしまいます。(これを私は「2040年問題」と呼んでいます)
「2040年問題」の解決を、皆さんの世代に押し付けていいわけがありません。私を含め、現在、社会で活躍している40代や50代は、皆さんが背負わなければならない荷物を少しでもかるくするよう対策に乗り出さなければなりません。
ところが、政治家も官僚も、団塊世代が75歳以上となり高齢者が急増する「2025年問題」の対策に追われて余裕がありません。「2042年問題」にまで手が回らないのが実情なのです。
私は、皆さんが背負わなければならない荷物を1つでも2つでも減らしたいという思いから、本書で「10の処方箋」を示しました。まず、私たち40代や50代が今取り組むべき課題は、労働力人口が大きく減少していくことことへの対策であると考えています。その解決は皆さんの世代に向けた「責務」でもあります。
「10の処方箋」以外にも、やるべきことはたくさんあります。たとえば、団塊ジュニア世代などで就職がままならなかった人たちに、今からでも定職についてもらうことです。職に就いても、年金保険料の残された支払期間を考えれば無年金・低年金を避けられないかもしれませんが、彼らはまだ40代半ばです。自分が食べていけるぐらいの収入を得られるようになって60代半ば以降まで働けば、「2042年問題」の負担を少しは軽くできるでしょう。40代の人を雇ってくれる企業はなかなか見つからないのも現実もありますが、若者流出が止まらない地方には、若い労働力を求めているところがあるはずです。
人口減少問題への対策は一朝一夕にはできません。その効果が表れるのに数年から数十年かかる政策も少なくないのです。2042年まで残された時間は、25年です。「まだ25年もある」と受け止めるのか、「あと25年しかない」と感じるかは人によって違うでしょう。ただそれは、何もしないでいるには長すぎるが、何かに取り組むにはあまりにも短い時間でもあります。
人口減少も少子高齢化も一挙に解決する ”魔法の杖” など存在しませんが、本書の人口減少カレンダーは、何をすべきかを考えるヒントになったのではないでしょうか。
この「国難」と言うべき課題は1つの課題世代だけでは解決しません。皆さんもいずれ親になる時がくるかもしれませんが、皆さんも子供の世代にも引き継いでいかなければならない問題でもあるのです。皆さんの世代は、人口減少というロングスパンで構えなければならないテーマの中で、どの部分、どの課題を解決するミッションを受け持つのでしょうか?それは皆さん自身、また皆さんの世代において考えるべきことです。
私は人口減少を「静かなる有事」と名付け警鐘を鳴らし続けています。一緒にこの問題を考えていきましょう。本書が皆さんの手引書となることを願っております。
「未来の年表」に興味を持ったら、ぜひ読んでみてくださいね!