リレーは遅い順に並べるとみんなが幸せになる
あとは仕組みを変えるのも大事で、うちのクラスは運動会のリレーを遅い順に並べるんですよ。そうするとチームが勝つためには1番から5番の遅い子たちが勝負どころになる。「お前らが離されるのはわかってる。だけど、とにかくトラック半周以内に抑えろ」と声をかけておきます。
後半に絶対抜くっていう考えで一生懸命やらせると、たとえ遅くても他の子から「おいー」とか言われないんですよ。なぜなら遅いのをわかっていて一番前にいるから。でもこの遅い子たちがちょっと頑張っちゃってビリじゃなかったりすると、待ってる子たちがハイタッチして出迎えるんですよ。負けてるのは変わらないのに。
–なるほど、速い子→遅い子だと展開的に気まずいですけど、逆はありですね。
だいたい足の速いやつは普段から走っちゃいけないところを走ってるんですよ、廊下とか。移動は基本すべてダッシュなんですね。でもそんな子たちを1ヶ月鍛えたところでこれ以上は速くならない。でも遅い子はたぶんトラック5周も練習したらすぐ速くなるんですよ。でもその5周を絶対しないんです(笑)
だけど「こいつらを鍛えれば速くなる」って言ったら、速いやつらが練習に付き合うんですよ。「クラスのためにお願い」とか言って。走りたくないやつが一緒に速い子に走ってもらって、終わった後に「よく頑張ったね、ありがとう」とか言われるわけですよ。この遅い子たちはもう家でもトレーニング始めちゃって、そうすると底が上がるからリレーは圧勝しちゃうんですよ。
この作戦をやると親にもいいですよ。親が「うちの子が抜かれてすいません」みたいなことがあり得ないんですよ。最初が遅いので、抜いていくことはあっても、抜かれることは起きないんです。
–適切な人を適切なところに配置して、全体が良くなるような仕組みを考えるんですね。
そのためにはやっぱりコミュニケーションも取らなきゃいけない。僕は毎日全員と交換日記してますけど、毎日コメントを書いて返していて。親の悪口が書いてあることもあるし、友達との関係も書いてあるし。でも親は見ないことになってる。
あとはEvernoteに子どもたちの様子をメモってます。Evernoteだとどこでも書けるじゃないですか。スマホとパソコンとiPadと。更新順に並ぶので、最近書いてない子は一番下になる。そうすると、その子に話かけに行ったりする。
クラスの目標は賞金を稼いで、ホテルでご飯
–さっきの運動会もそうですけど、ちゃんと目的に向かって戦略を実行させるわけですね。
ゴールは意識させますけど、そこに辿り着く手段に関しては僕は求めていません。「好きにやっていい」って言ってますので、皆で考える場合もありますし、個人的に考えてくる場合もあります。
でもクラスには目標があって。それは何かというと、とにかく賞金を取ること(笑)。賞金を取って、ホテルでご飯を食べて、リムジンに乗って帰るっていう目標が全員で共有できています。でもその賞金を取るためには、作文コンテストだったり彼らの実力が要求されるわけです。
そこに向けて皆が自分の得意なことをやっているので、例えば「8月8日に豆つかみ大会があるから出ませんか?」みたいなプロジェクトが勝手に立ち上がります。
うちのクラスはやりたいことが多すぎて、すべてをクラス全員でやってると間に合わないので、プロジェクトチームを作っています。全員どこかのプロジェクトに所属しなきゃいけないってこともなくて、やりたいやつだけやればいい。でも結果的に全員どこかに入ってるんですけど。1人で4つくらい掛け持ちしてるやつもいます。
「良い質問ですね」はNG
–例えば授業をする上で、何か気をつけていることはありますか。
テレビ番組でたまに聞くんですけど、「良い質問ですね」って言葉があるじゃないですか。あれは先生が言ってはいけない言葉だと僕は思ってるんですよ。良い質問は、先生にとっての良い質問なんですよ。それを言い出すと子供は、先生の思っている良い質問を探そうとしてしまうから。
–それは先生に褒められるために。
そうです。「良い質問ですね」というのは、その人が展開したい通りにストーリーが進むから良い質問であって。
あれって教育実習生がよくやってしまうんですよ。授業の流れを準備しておいて、なかなか子どもが思うようにいかないところで、自分の思った方向に向いてることをポンと言うと、「今◯◯ちゃんが良いことを言った!」って(笑) 良いことっていうのは、良い悪いの判断を先生がしているだけ。子どもは自分が良いと思ってるからわざわざ発言してるのに。
でも思わず言っちゃう気持ちはわかる、準備してきてるわけだし。だから実習生に僕が教えるのは、「1回言ってしまったらその次のやつから全部『良い質問』にしろ」って。良いこと言ったねって言ったら、次から全員良いことにしちゃえばいい。
やっぱり先生の枠の中だけで授業が終わっちゃったら、先生よりも凄いやつは出ないですよね。日々、「そう来るの?」みたいな意見が出てくるのが一番楽しいですよ。本当の意味での個性を出せたかなと。